| |
小学2年生のあるクラスに、難聴の生徒が居ました。仮にこの子をA君としましょう。
A君は、椅子のガタツキや騒音に、時折パニックになっていました。
そこで、キャップソックスを1クラス分40脚、つまり160個購入しました。
冬のある日、朝のホームルームで、担任の先生がクラス全員を立たせました。
「みんな、椅子を引いてごらん!」
A君のことがあるから、それなりに静かに椅子を動かすクラスメイトたち。
それでも、ガラガラと音がします。
このとき、階下の事務室では、事務担当さんたちが聞き耳を立てていました。校長と副校長は、教室の前の廊下に居ました。
「さあ、今から、これを4つずつ配るから、先生がやるように、自分で椅子の脚にはかせてみて」
キャップソックスを渡された子どもたちは、椅子を机の上にひっくりかえし、めいめいにキャップソックスを履かせました。
「よし、さっきと同じように、みんなで椅子を動かしてみよう」
先生の号令に、今一度、椅子を押し引きする子どもたち。音が、だんぜん小さくなりました。
階下の事務室も、廊下の副校長先生も確認しました。
「もっと、強く、動かしてみよう」
先生の次の号令に、激しく押し引きを始める子どもたち。でも、音は、最初よりも小さいまま。
そのとき、クラスの何人かがさけびました。
「おい、A!よかったな」
「Aくん、よかったね」
『Aくんのために』とは、ひと言も告げていなかったのに、子どもたちが、自発的に言い合ってくれたのです。
「2年生の児童にも、知らぬ間に他人を慈しむ心が芽生えているのですね」
副校長は目を潤ませて、お話して下さいました。
|